うつ傾向に陥ると、何が何だか混乱することがあります。
何を信じたらいいのか、誰のいうことを信じたらいいのか、
どんなことを信じたらいいのか…
「なにか絶対的なファクトがほしい」
そんなときに求められがちなのが、「科学」です。
17世紀にニュートンが現代の科学観をもたらしてから、今や、さまざまな生活の基盤を支える技術がたくさん発展しました。
そして、台頭する「科学的思考」「論理的思考」など、思考の技術。
多くの人が、そういう強そうなもの、正しそうなものを信じ切っています。
本当にそのスタンスでいいのかという疑問はおいておいて、本稿では、絶対的な知識を求めがちになるであろう、高学歴うつ仲間に向けて、おすすめの本をご紹介します。
一時期、私も脳科学関連の書籍を読み漁り、セロトニンがどう、ドーパミンがどう、いいサプリメントはどれだ、などなど科学的な何かに頼っていました。
それから1,2年が経って、久しぶりに科学的な何かで面白そうな本があったので手にしてみた次第です。
その本は、「ストレスの脳科学」です。こちらについて、感想を述べていきたいと思います。
概観:何がよかったのか
一言でいうと「懇切丁寧なところ」がよかったです。
「ストレスが胃にくる」とだれもが知っている因果関係ですが、それはどうやって実験で確かめられたのかご存知でしょうか。
それと、そもそもどうやってストレスを計測するのか。
また、どのようなストレスが、大きな負担になるのか。あるいはむしろ、良い刺激となるのか。想像がつくでしょうか。
こうした、「なんとなく知ってるけど、詳しくは知らない」というような知識に、科学的知見を丁寧に与えていこうというのが、当書籍から伝わってくる一貫した雰囲気です。
それによって、説得力がある内容となっているのです。
一部をご紹介
特に私が面白いとおもった部分を抜粋してご紹介します。
上司と部下のストレスの差はコントロール手段の有無
職場はいろいろなストレッサーのあるところで、多くの人たちがそれぞれの職場でいろいろなストレスをかかえていると思います。(中略)ここでは、人間関係でのストレス、その中でも職場の上司と部下との関係のストレスについてみていくことにします。
(p.112 「第7章 仕事とストレス > 1 役割の違いとストレス反応」より)
実験方法と計測方法、結果についても言及されています。
上司と部下、どちらがストレスフルな環境で働いているでしょうか。
上司の方が大変だと思っていた人にとっては仰天の結果かもしれません。
ここでの答えは、部下です。
ただし、失敗に対する責任の所在は考慮されていません。単純に、仕事(ストレス)に対してコントロールする手段があるかどうかの一点について、比較すると上司の方がストレスが小さいという結果なので、「上司の方が仕事が楽だ」ということではないことには注意です。
アルコールは脳の不安や恐怖の部位を抑制する
(中略)ストレスによって生じたノルアドレナリン放出の亢進は、アルコールを投与することで扁桃体や青斑核では抑制されました。
(p.183 「第12章 ストレス反応を和らげるもの > 2 アルコールでストレスは解消できるか」より)
「お酒でストレス解消」と習慣化している人もいるかと思います。実際、アルコールにより、ストレス反応は抑制されていることが判明したそうです。
では、抗不安薬の代わりになるのでしょうか。答えはもちろん、NOです。同じくストレス反応を抑制しているようにみえますが、やはり厳密には違う作用であることが言及されています。
まとめ
本稿では、「ストレスの脳科学」をご紹介しました。
この本に限らず、メンタルで悩みを抱えたときには、脳科学というキーワードでいくつか本を読んでみることはおすすめです。
ものすごい辛く感じているかもしれませんが、それは脳という臓器が起こしている物理的現象にしかすぎないという解釈ができます。そうすると、少し気が楽になります。
落ち着いて、自分の状態を観察することもできるようになります。
「今、自律神経がみだれてるなあ」「深呼吸しておこう」「ちょっと散歩しておこう」というように、こうした対応も自然ととれるようになります。
科学的に、自分のメンタル面の異常から、身体の現状を把握することができるようになった結果、適切な対応もとれるようになるのです。
そうこうしているうちに、うつ状態である時間が短くなっていくでしょう。もしかしたら、ネガティブな感情が気にならなくなってくるかもしれません。他者がいってくる心無い暴言にも余裕をもって対処できるようになるでしょう。
まずは知識を獲得して、いくつか実践してみて、自分なりの思考スタイルを身につけてみていただければとおもいます。